第20話

 

「相談?いいけど、なんだい」

セナは前を向きなおすと少し真面目な顔をした。

「あ、あのよ・・・ケインの・・・ことなんだ」

「ケイン・・・」

「そ、そのあたしはな、ガキのころさ、周りには大人しかいなくて。遊び相手っていったらよ、ケインしかいなかった」

「・・・・・・・・・」

「許婚って言葉の意味はわからなかったけど、あたしはケインが好きだった」

「・・・・・・・・・」

「それがさ、いきなりあんなことになって。親父が殺されてあたしは1人になった。

親父を殺したアルバリア王をあたしは憎んだ。そしてケインのことも・・・」

昔のことを思い出したのかふいにセナの涙腺が緩み、慌ててセナは顔を背けた。

「・・・・・・セナ・・・」

「だが、あたしだってもうガキじゃない。ケインが王の元を離れることの意味ぐらいわかっている。分かっているんだ、だけど・・・」

セナは顔の前で手を組んだ。

「ケインがあたしの前に現れたとき、あたしはケインのことを許せるかどうかわからない・・・」

「・・・・・・・・・」

アレフは、顔を伏せたまま小刻みに震えているセナの肩に手をまわした。

「!」

「無理、するなよ」

「アレフ・・・」

「俺にはセナの苦しみを共有することはできない。そう言ったことは当事者にしか理解できないから。

でも、いやだからこそ、俺の前では無理しなくていい。しないで欲しい。辛そうなセナの顔、俺見ていたくないんだ」

「・・・・・・か、格好つけやがって」

そう言うとセナはアレフの胸に顔を埋めた。

セナの体はアレフの腕にすっぽりと収まってしまった。

そのことにアレフは衝撃をうけた。

男と女ではもともと体の作りが違う。

それなのに、こんなに細い体なのにセナは辛い現実に1人で立ち向かっていたなんて。

気が付くとアレフはセナを抱きしめていた。

「お、おい。アレフ」

「うっ!?」

(な、なにしてるんだ。俺はっ)

慌てて手を離す。

「ご、ごめんっ、お、俺つい・・・」

「いや、別に嫌じゃなかったから」

「え・・・」

耳を疑った。

今、セナはなんと言ったのだろう。

アレフが固まっているとセナはスタッと木から飛び降りてしまった。

「早く寝とけよ。明日もはやいんだからな」

「お、おう」

アレフの手にはさっきのセナの温もりが残っていた。

それを噛み締めるようにぎゅっと手を握る。

まだ分からないこの気持ちの意味も、いつか旅を続けていればわかるときがくるだろう。

その時までは心の奥底に沈めておこう。

今はやるべきことがあるんだから。

「さてと、俺も寝るかなぁ」

アレフが木から降りた時、遠くの茂みが動いた気がした。

「!?」

仲間はもうみんな休んでいるはずだ。

まさか、モンスター?

アレフは剣を抜いた。

構えを取る。

ガサガサッ

気のせいではない。

そこになにかがいる。

「・・・・・・・・・」

じりっ

足を踏みしめる。

俺は強くならなくてはならない。

今よりももっと、セナを守れるようになるまで。

ザッ

風の音と共にそれは現れた。

長身の男だった。

というか、仁であった。

「じ、仁さん?」

「お待たせしたでござる。街に行く途中で幸運にも商人に会うことが出来申した」

「あ・・・」

(わ、忘れてた・・・)

「うぬ?アレフ殿、もう動いて平気なのでござるか?」

「え、えっと・・・」

アレフは仁にこれまでのことを説明した。

「なんと、そのようなことが」

「ええ、仁さんにはいろいろとお世話になりました」

「いや、拙者は当然のことをしたまででござる」

仁は空を仰いだ。

「しかし、セナ殿が・・・・・・これも運命か・・・」

「え?」

「いや、なんでもありませぬ」

仁は買ってきた薬草をアレフに手渡した。

「仁さん?」

「まあ、このようなものは持っていても邪魔にはならんでござろう」

「すいません」

「いや、礼には及び申せぬ」

そして、くるっと後ろを向いた。

「道中気をつけていくでござるよ。拙者はここを離れることはできないが」

「いえ、本当にありがとうございました」

アレフは深く頭を下げた。

「王女に・・・いや、セナ殿のご武運を祈っているでござる」

一度だけ振り返った仁の顔からは強い意志が見受けられた。

「あ、はい。仁さんも気をつけて」

「では、これにてごめんっ」

ザッ

仁は飛んだ。

結局アレフは仁のことを何一つ分からずじまいだった。

だが、仁が言いかけた言葉『王女』の意味にアレフは気付いていなかった。

 

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