第2話

 

アレフはセナの後を一生懸命追いかけていた。

だが、なにぶんあっちは馬でこっちは人の足。

追いつくはずもない。

「ハァハァハァ、どこまでいったんだよ・・・。くそっ」

馬の脚で1時間でこれるところは人間の脚では少なくとも3時間はかかる。

アレフは2時間走りっぱなしだったのだ。

「あーっ、もうダメだあっ」

そのままアレフは大の字に寝っころがった。

「ちきしょう・・・これ以上離されたら追いつくことなんて出来ないじゃんか・・・」

目を閉じると風の音が聞こえた。

セナが馬を走らせた時、アレフにはセナが風と一体になって走っているように見えたのだ。

「人が風に追いつこうなんて無理なんじゃないのか・・・」

そう呟いた時、風の音に混じって水の跳ねる音が聞こえた。

「水の音・・・?」

アレフは起き上がってその音が聞こえるほうに歩いていった。

人の背ぐらいあるような草をかき分けて歩いていくとそこには湖があった。

「こんな所に湖があるなんて・・・」

「誰だっ!!」

「えっ」

急に声がしたのでアレフは驚いて声のした方を見た。

そこには女神がいた。

・・・じゃなくて口の悪い女神がいたのだ。

そう、セナが水浴びをしていたのであった。

「あ・・・」

アレフは真っ赤になって後ろを向いた。

「ご、ごごごご、ごめんっ、ま、まさか人がいるなんて・・・」

アレフは必死になって弁解したがセナはそんなこと気にしていないようだった。

「お前は・・・あの時の・・・」

「そ、そう。お、オレあんたを追いかけてきたんだ」

「あたしを?なんでだ・・・・」

セナは湖から上がりそのままの格好で歩いてくる。

「ちょ、ちょっと!ふ、服着てくれよっ」

「あ?ああ」

セナはしぶしぶ服を着た。

「着たぜ、これでいいんだろ」

アレフはようやく前を向いた。

「で?」

「え・・・」

「なんであたしを追いかけてきたわけ?」

「あ、ああ、確かにオレは弱い。でも絶対に強くなる。そして君に借りを返す。だから、着いて行ってもいいかな・・・」

「・・・・それだけ言うために追いかけてきたのか?」

「だって会わなきゃ言えないじゃないか」

「はっ、変な奴」

アレフはセナが笑ったのを初めて見た。

言葉使いやなんやらは男っぽいが笑顔だけを見れば完璧な美少女といえる。

綺麗な服を着たらさぞかし綺麗だろう。

アレフは完全に見惚れていた。

アレフの生まれ育った街にはこんなに綺麗な人はいなかった。

「おい、なに人の顔じろじろ見てんだよ」

「あ、ごめん」

「えーと・・・名前なんだったか?」

「アレフレッド・・・です」

「そうそう、アレフレッドだったな」

アレフはつい緊張して敬語になってしまったがセナは気付かなかった。

「アレフレッド、あたしについてくるって言っても馬もってんのか?」

「え・・・いや・・・」

「お前、走ってついてくる気なのか?馬に」

「あ、そ、それは・・・」

その時、街からドーンという音が聞こえた。

「あ、いっけね・・・合図だ」

「あ、合図って・・・」

「これからあたし武闘会に出るんだ。その話はまた後でな」

セナはつないであった馬を放して上に乗り、そのまま街のほうに走って行ってしまった。

「あ、ちょっとっ、また後って・・・」

アレフはセナが元いた場所に向かって叫んだがそこにはもう誰もいなかった。

 

セナは貼り出された対戦表を見上げた。

「えーと・・・ケートン、ケートンっと、なんだぁこれじゃ決勝までいかないと当たんねーじゃねぇか」

「俺がどうしたって」

突然頭の上から声がした。

セナは別に驚きもせず、そのまま上を見た。

二メートルはあるかという大男がそこに立っていた。

「あんたがケートン?」

「そうだが・・・お前は誰だ?」

「あたしはセナって言うんだ。あんたが強いって聞いたからよ、対戦したいと思ってさ」

「セナ・・・、そうか俺も聞いたことあるぜ」

「そいつはどうも」

「フッ、じゃあ決勝でな・・・」

「ああ・・・」

ケートンはどしどし音をたてて去って行った。

「ふーん、なかなかやりそうじゃん」

セナも闘技場に行こうとした時、ある男に目がいった。

その男はボロボロの服を着て顔も汚れていたが持っている剣が妙に目立っていた。

「あの男・・・」

セナも剣士である。

使っている剣を見ればどのくらいの腕前かが分かるのだ。

セナはその男に近づいた。

「あんたも武闘会に出るのかい?」

声を掛けると男はビクッとしておそるおそるセナのほうを向いた。

「う・・・・・・」

「見たところ、かなり出来ると思うんだが」

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

男がなにも言わないのでセナはムッとして

「おい、なんとか言えよ」

と言って男の腕を掴んだ。

「うわああああああああっ」

男は物凄い絶叫をしてセナの腕を引っぺがし、ずざざざざっと後ず去った。

「な、なんだよ、お前・・・」

「お、おおおお、俺に近づくな・・・」

「はあ?」

「に、ににににに苦手なんだよ・・・・・・お、女は」

セナは呆れ顔をして腕を組んだ。

「お前な、その態度かなり失礼だぜ」

「す、すすすすまん・・・だ、だが・・・俺にふれんじゃねぇ・・・」

「わーったよ、ったく・・・で、お前、武闘会に出るのか?」

「あ、ああ、この街ではそんなもんやるらしいな」

男は少し落ち着きを取り戻して言った。

「ってことはでねぇのか」

「俺はそんなものに興味はない」

「ほおー、言ってくれるじゃねえか。そこまで言うんならかなり自信があるんだろ」

「・・・そう聞こえたなら、そう受け取れ」

セナは男の態度が気に入った。

「気に入ったぜ。お前、名前は?」

「クロッサル・マイファナルだ」

「クロッサルね、よし分かった。あたしは武闘会に出るんだ。それが終わったら一戦頼むぜ」

「な、なに!?」

「なんだよ、自信あるんだろ」

「お、俺に女と戦えというのか」

「・・・女なんかと戦えねぇとでも?」

「い、いや、そうじゃない・・・ただ・・・」

「ただ?」

「戦うってことは・・・密接するってことだろ・・・、そ、そんなこと俺に出来るはずがない」

セナは一瞬黙ったがプッと吹き出した。

「あはははは、ははは。お前最高だな、おもしれえ」

「わ、笑うんじゃねぇ。俺はこれでも真剣に悩んでるんだぜ」

「分かった、分かった。あたしがお前のリハビリに付き合ってやるよ。そしたら戦ってくれるだろ」

「あ、ああ。別にかまわんが、そんなのいつになるか分からんぞ」

「かまわねえよ、時間はたっぷりとあるんだ。そう、たっぷりとな・・・」

セナが一瞬だけ悲しそうな顔をしたのをクロッサルは見逃さなかった。

だが、それについて聞くことはなかった。

 

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