第4話

 

「でやあああっ」

「とおっ」

「う、うわっ、く・・・くそっ、やあっ」

三人が一緒に旅をし始めてから約一月。

一向はある森の中にいた。

さまざまな街を訪れたがどの街にも長くは留まらなかった。

今はシュバーレの街に行くため、この迷いの森と呼ばれるこの場所に迷い込んでいたのだ。

この森の中では下級だがモンスターが襲ってきた。

コブリン、ブラックパンサー、ダークベアなど、セナとクロッサルにとっては軽いものだったがアレフにはかなり辛かった。

「やあああっ」

最後の一匹を倒したセナが剣を杖代わりにして寄りかかった。

「ふう・・・なんだかすげえ量だったな」

「おう、さすがに俺も疲れたぜ」

クロッサルも地面にへたり込んでいる。

「あれ・・・アレフは?」

「あ?その辺にいねえか?」

「・・・・・・。いた・・・。あんなことろで寝てやがる」

一度の襲撃でセナとクロッサルが15匹ずつ倒したとしてもアレフはせいぜい3匹だ。

それも二人より時間がかかる。

「はあはあはあ、死ぬーーっ」

「死にゃあしねえよ、ったくこんなところで先にへばってんじゃねえ」

「だ、だってさ・・・」

「お前、強くなるんじゃなかったのかよ」

「そ、そうだけど、急には無理だよ・・・」

「なさけねぇ奴だな」

「!!」

アレフはカチンときて無理やり立ちあがった。

足がふらつく。

「お、おい、急に起き上がって大丈夫なのか」

「大丈夫だよ。俺は二人ほど動いてないからね」

「なに怒ってんだ?お前」

「別に・・・金は俺が拾っといてやるよ」

モンスターを倒すと何故かはわからないが、必ずといって金貨を落としていく。

それについてあまり深くは追求しないように。

旅するものにとって金がなければ旅なんてできないんだし、仕事もそうそうあるわけがないので。

「あ、ああ。頼むな」

口は悪いがセナにはちゃんと分かっていたのだ。

アレフの腕が上がっていることに。

アレフははっきりいって負けず嫌いだ。

だから自分のことをか”情けない”とか”腰抜け””弱虫”などと言われると自分の限界以上の力を出せる。

セナはそれを狙っていた。

(ったく、分かり易い奴だぜ・・・)

セナは金を拾うアレフを横目で見ながらフッと笑った。

「おう、セナ。俺よりおめぇのほうがアレフのこと可愛がってんじゃねえか」

クロッサルが声をかけた。

セナはクロッサルのほうを向いた。

「なにいってんだよ。お前だって十分やってんじゃねぇか」

「はは、あいつはいじめがいがあるよなぁ、弱ぇくせに負けん気が強ぇでやんの」

「そういう奴のほうが強くなんだよ」

「そうだな・・・」

そのうちにアレフが金貨を腕一杯抱えて戻ってきた。

「これで全部だ、35枚だな」

「ん?たしかあたしは14匹倒したんだ。クロッサルは?」

「あーっと・・・16匹かな、多分」

「ってことはアレフ5匹倒したのか、すげぇじゃねえの!」

「・・・・・・別に」

「んだよ、まださっきのこと怒ってんのか。いつまでもうじうじと女みてぇな奴だな、お前」

「なっ、なにぃ、セナっ言って良いことと悪いことがあるぞ!今の言葉取り消せっ」

「おいおい、アレフ、落ち着けよ。セナもいい加減にしろ」

「・・・わ、悪かったよ。取り消す」

アレフが大声を上げたのを始めて聞いたのでセナは驚いていた。

アレフは今までセナの言うことに反論したことがなかったからだ。

1歳年上ということもあるだろう。

いつもアレフは穏やかな表情でセナを見ていた。

「あ・・・ご、ごめん。セナ・・・、俺ちょっといらついてて・・・つい・・・」

アレフはすぐにいつもの表情に戻ったが、セナはさっきの表情が頭に残っていた。

 

「あー、おめぇら、今日はこの辺で休もうぜ。明日にはシュバーレの街につくだろうからな」

「そうだな・・・」

「ああ」

夜になってもセナはすぐには寝つけなかった。

アレフのことを考えていた。

隣を見るとクロッサルは剣を抱いてぐぅぐぅといびきをかいて寝ている。

パチパチと焚き火の音がしている。

セナはあたりを見まわしたがアレフの姿が見えなかった。

(あれ・・・どこに行ったんだ、あいつ・・・)

セナは静かに立ち上がるとその場から離れた。

しばらく行くとビシッバシッという音が聞こえてきた。

セナはその音がするほうに歩いていった。

「りゃあああっ」

バシッ

「でやあっ」

ビシッ

それはアレフが木の幹を相手に剣の練習をしている音だった。

セナは思わず身を隠した。

別に隠れる必要はなかったのだが、邪魔をしてはいけないと思ったのだ。

アレフの真剣な横顔ととびちる汗。

アレフは3人で旅を始めてから毎晩剣の練習をしていた。

疲労もピークに達していたのだろう。

確かに最近のアレフはいつもいらついていた。

「はぁはぁはぁ、くっ」

アレフが片膝をついて倒れた。

「あ、アレフっ」

セナは思わず飛び出していた。

アレフの傍に行き、体を仰向けにして自分の膝に乗せた。

「せ、セナ・・・?どうしてここに・・・」

「馬鹿野郎・・・無茶しやがって・・・」

「はは、俺弱いから、少しでも二人に追いつかないと・・・」

「だからって言ってくれれば・・・」

「こういうのってさ、隠れてやるから格好がつくんじゃないか」

「馬鹿・・・お前って本当馬鹿だよ・・・」

「あれ?今度は野郎がつかないのか?」

「なっ、ば、馬鹿野郎っ、もう知らん!!」

セナは真っ赤になってアレフを放り出した。

「あてて、なにすんだよ、いきなり・・・」

「ひ、人が心配してやってんのに茶化してんじゃねえよっ」

「ごめん、ごめん。悪かったよ」

「もう、遅ぇっ」

「あ、ちょっと待てよ」

「聞く耳持たんっ」

「・・・ありがとう」

「・・・・・・・・・」

セナは振りかえらないでそのまま前に進んだ。

しばらくするとまたビシッバシッという音が聞こえてきた。

セナは口元に笑みを浮かべ、焚き火の場所に戻り横になった。

そして眠りについた。

 

第5話へ

 

<戻る>

[PR]動画