第6話

 

「ラドータ?なんです、それ」

「んー、俺も詳しくは知んねー。でもよ、それを覚えたらすげーことになるって話だ」

「凄いことですか・・・」

「ああ、なにしろ究極だぜ。こりゃあたまんねえよ」

「ま、その気持ちは分からんでもないがな」

「そうか、そうか。分かってくれるか」

タータはクロッサルの肩をポンッと叩いた。

「お、おう」

「兄ちゃん・・・お前・・・ホモか?」

「んなっ、なんだとぉ、てめえっ」

「だってよぉ、なーんかそっちの兄ちゃんにずっとくっついてるじゃねえか」

「え・・・そ、そうなのか・・・クロッサル」

「ち、ちがーーーーーうっ、お、俺はただ・・・その・・・セナから・・・」

「セナから?」

「す、少しだけ離れてるだけだ」

「なんでセナから離れんだよ?」

「タータビネーニョさん、クロッサルは女性が苦手なんですよ」

「なにっ、女が苦手!?お前・・・奇特な奴っちゃなー」

「な、なに・・・」

「女が苦手だあ、じゃあお前はなんの為に生きてんだよ」

「な・・・なんの為って・・・」

「この世の中には男と女しかいねえんだぞ。その片方が苦手だあ、それじゃ生きてる意味なんてねーじゃねえか」

「そ、そうなのか・・・」

「あったぼうよ、女はいいぞぉ。よし、わかった。俺が今晩女の良さを教えてやる」

「え・・・い、いいよ」

「問答無用。そんな奴が俺のそばにいるなんて俺が耐えられねんだよ」

「あ、ちょ・・・腕をひっぱんじゃねぇっ。アレフっ、助けてくれぇ」

「あっ、タータビネーニョさん。セナ、どうしよう?」

「・・・・・・あの野郎・・・何を知ってやがるんだ・・・」

「セナ?どうしたんだよ」

「え、べ、別に・・・」

「クロッサル、連れて行かれちゃったよ。どうする?」

「?」

セナはあたりを見まわした。

「連れて行かれたってなんでさ?」

「話聞いてなかったの?なんか女性の良さを教えるとか」

「女性の良さぁ?なんだそれ」

セナが本当に話を聞いていなかったことがよくわかったのでアレフはため息をついて1から話した。

「あはははっ、そりゃいい。クロッサルも少しは良くなるんじゃねえか」

「そうかなぁ・・・うーん」

「まあ、今日はもう戻ってこねぇだろうから、宿を探して休むとするか」

「そうだね、はやく探しとかないと」

2人は1軒の宿を見つけて中に入った。

「いらっしゃいませ、お二人様で」

「そうだ」

「お部屋は1部屋で宜しいので」

「い、いえ、別々に」

「申し訳ありません。他の部屋はもう満室で1部屋しか空いてないのですが」

「え・・・」

「別にいいじゃねえか。かまやしねえよ」

「それではご案内いたします」

「ちょ、セナぁ」

セナはずんずんと歩いていった。

(セナってどっか抜けてんだよな)

アレフは頭をかいた。

(だいたい男と女が1部屋なんて)

ぶつぶつと言いながら歩いていたのでアレフは横から出てきた人とぶつかってしまった。

 

「うわっ」

「キャッ」

2人はお互いに尻餅をついた。

「ご、ごめんなさい」

ぶつかった人は女性だった。

アレフは慌てて起き上がり手を差し出した。

「あ、こちらこそ」

その人はアレフの差し出した手に自分の手を乗せた。

アレフは女性を立たせて頭を下げた。

「すいません、考え事をしていたもので」

そんなアレフを見て女性はクスクスと笑った。

「そんなに謝らないでください。こちらも少し不注意でしたから」

完璧な美人、アレフはそう思った。

どこかの貴族の娘さんだろうと。

その時、離れたところから声がした。

「おじょーさまぁ、おじょーさまぁ。お戻り下さい。旦那様がお呼びでございます」

(お嬢様?もしかしてこの人が・・・)

アレフがそう思って女性をチラッと見るとその女性はアレフにぐいっと顔を近づけた。

「お願いがあります」

「は、はい。なんでしょう」

「私をつれて逃げてください」

「は?・・・」

アレフは10秒間ぐらい固まっていた。

「えっと・・・今なんと・・・」

「私をつれてお逃げ下さいっ、お願いいたしますっ」

「ちょ、ちょっと待ってください。落ち着いてっ」

女性がアレフにぐいぐい近づいてくるのでアレフは後ず去った。

「おじょーさまぁっ」

声がすぐそばまで来ているのに気付くとその女性はアレフの手を引いて走り出した。

「あっ、ちょっと君っ」

アレフがいくら叫んでも女性は無我夢中で走っている。

そのうちセナとすれ違った。

「アレフ!?」

「せっセナーーーッ、助けてくれぇーーーーっ」

セナはアレフが幾ら待ってもこないので探しにきたのだ。

「お、おい。どういうこと・・・」

セナの声がだんだん聞こえなくなっていく。

(参ったなぁ、どうしよう・・・)

アレフは走りながら一生懸命走っている女性を見た。

こんな貴族の女性が幾ら走っても普段から走ったりして移動しているアレフの足がついていかないはずがない。

むしろ、遅いくらいだ。

走って走ってアレフ達は街外れに来ていた。

「はぁっはぁっはぁっ」

「ちょっと君、大丈夫かい?」

アレフが女性の背中に手を伸ばした。

「は、はい・・・なんとか・・・」

「急に走り出したりして驚いたよ」

「す・・・すいません。やむにやまれぬ事情があったもので・・・」

女性の顔が赤い。

最初は走ったせいだろうと思っていたがいつまでたっても直らなかった。

「どうしたの?顔赤いよ」

「は、はい。あの・・・手が・・・」

「手?・・・・・・あ、ご、ごめん。背中さすってあげようかと」

「い、いえ、その・・・私、殿方に慣れていないもので・・・」

(慣れていない人が男の手を取って走り出すのかな・・・)

「あ、私ったらすいません。ご迷惑をお掛けして」

「い、いえ。俺は平気だけど」

「私、フィリシア・ディアスと申します。突然で驚かれたでしょう」

「俺はアレフレッド・サンダロスです。まあ、否定はしないけどね」

フィリシアはクスッと笑った。

「正直な方ですね」

「そ、そうかな」

アレフもつられて笑顔になった。

 

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