第7話

 

「実は私、お父様に結婚しなさいと言われまして」

「結婚・・・」

「はい、相手が・・・お父様のお知り合いの方のご子息で。

今日ここに連れてこられて突然婚約を決めてきたと言われまして、それで我慢できなくまって・・・」

「そっか・・・」

「はい・・・」

アレフは草原に寝転がった。

「それならさ、嫌って言えばいいじゃないか」

「そんなこと・・・お父様に言えません」

「だって嫌なんだろ」

「それは・・・」

アレフはフィリシアの方を向いた。

「きっと君は今までずっとその『お父様』の言うことに逆らったことはないんだろ」

「・・・・・・」

「自分の気持ちには素直になったほうがいいよ。我慢して結婚して、後で後悔したって、君は『お父様』を責められないんだぜ」

「・・・でも私、それを断る理由がないんです」

「え?好きな人とかいないの?」

「・・・・・・」

「うーん、じゃあさ、相手の顔が気に入らないとか」

「いえ、とても良い方なんですけれど・・・」

アレフはフィリシアの顔をじぃっと見た。

「あ、あの、何か・・・」

「フィリシア、君って何歳?」

「え・・・16です」

「16で結婚かぁ・・・早いよな」

「・・・あの、アレフレッドさんはいくつなんですか?」

「俺は18だよ」

「そうですか・・・実は相手の方って30歳なんです」

「げっ、30!?マジ?」

フィリシアは下を向いてしまった。

「あ、ごめん。理由はそれか」

「・・・・・・」

「だったらさ、それを言えばいいじゃないか」

「はい、そうなんですけど・・・私・・・」

「うん?」

「私、お慕いする方ができました」

「え?でも好きな人いないって」

「アレフレッドさんです」

アレフは今度は30秒間くらい固まった。

「ちょっと待って、俺、幻聴が聞こえるみたいなんだけど」

「幻聴ではありません」

「フィリシア、落ち着いて・・・」

「アレフレッドさんてしっかりとした考えを持っていらして素敵です」

「ちょっと、フィリシア、待ってってば」

アレフは思わず起き上がった。

「私のことがお嫌いですか?」

「嫌いとかそういう問題じゃないよ」

「では好きなのですね」

「だからっ、俺の話を聞いてくれっ」

アレフはフィリシアの肩を掴んだ。

「いけません、こんなところで」

「あのね、君、勘違いしてるよ」

「はい?」

「いいかい、俺は旅をしてるんだぜ。世界中を周ってるんだ。だから君と一緒にはなれない。OK?」

「はい・・・」

「そっか、わかってくれた?」

「私もご一緒すればよろしいのですね」

「ちっがーーーーうっ、違うよ、フィリシア。そうじゃないんだ」

「いいえ、そうですわ。そうと決まれば私、お父様にお願いしてきます」

フィリシアはくるっと後を向くとなにやら呪文を唱え出した。

「フィッ、フィリシア?」

「我の周りに流れたる風よ、神の力を借り形となりて我を助けよ。混沌の間を通り、異場へ我を移しななん。テレポート!!」

フィリシアの周りに風の渦ができ、その渦が消えた時にはフィリシアも一緒に消えてしまった。

「お、俺を置いていかないでくれぇーーーーーーっ!!」

 

アレフは叫んだが後の祭。

フィリシアも魔術師だったのだ。

アレフは仕方なく宿屋まで歩いて帰ってきた。

セナの部屋を聞いて部屋の前まできたが、ノックしても返事がない。

「セナっ、俺だよ、アレフだよ。開けてくれってば」

鍵をはずす音がしてゆっくりとドアが開いた。

「・・・遅かったな」

「あ、ああ」

セナはそのままベッドの上に腰掛けた。

「なにやってたんだ、アレフ」

「ちょっといろいろあって・・・」

「いろいろねぇ、女と一緒で楽しくやってたんじゃねえのか」

「べ、別に楽しくなんて・・・俺だって大変だったんだぜ」

アレフはセナの方を見た。

「別にあたしにはカンケーねぇけど」

「か、関係ないなら聞くなよ」

「・・・・・・なんだと」

セナもアレフの方を見た。

「いくら一緒に旅してるっていってもいちいち人のプライバシーにまで首を突っ込まなくたっていいだろ」

「・・・・・・てめぇ、お前はあたしに借りがあるから付いて来たんだろ。こっちは好きで一緒に旅してるわけじゃねえんだぜ」

アレフは黙って下を向いた。

「・・・じゃあ、俺なんかいないほうがいいってことだよな」

「!!」

セナはハッとした。

「ずっとそう思ってきたんだろっ、セナっ」

「ア、アレフ・・・」

「・・・・・・分かった」

アレフは後を向くと部屋から出て行った。

「アレフっ」

セナは手を伸ばしたが、その手がアレフに触れることはなかった。

(あたしは何をイラついてんだ。アレフと女が一緒にいたっていいじゃねぇか。何が気に入らねえんだよ・・・)

セナは額を手で押さえた。

(分かってっけど、頭では分かってっけど、口が勝手に動くんだ)

それはおそらく一般的に言うと焼き餅というものだろう。

だが、セナは人を好きになるという行為を知らなかった。

幼い頃から戦う事だけに明け暮れてきたのだから。

(でもこのままじゃいけねぇ。アレフにひでぇ事いっちまった。謝らねえと)

セナは立ちあがり、アレフの後を追いかけた。

「くそっくそっ、ちくしょーーーーーっ!!」

アレフは走っていた。

それはもう無我夢中で走っていた。

ショックだった。

セナがあんな風に思っていたなんて。

実際、自分はセナに借りを返すために一緒に旅をはじめたはずだった。

だからそういう風に言われても気にならないはずなのに。

1ヶ月以上も同じ時を歩いてきたせいだろうか。

アレフはセナと一緒にいることが嬉しかった。

同じ敵に向かって、協力しあって戦うことが楽しかった。

(注:単に戦うことじゃなくて同じ目的で戦うってことがだぞ)

でもセナはそうじゃなかったんだ。

そのことが無性に悔しく、また悲しかった。

 

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