『LIKEがLOVEに変わるとき』

 

第8話

「健二っ パスッ。」

「おうっ。」

圭一と僕はツートップのエースストライカーだ。僕がしっかりしないと、点なんて取れない。

とりあえず僕は、練習中は京子の事を考えないことにした。

夏休み中だというのにフェンスの向こうには女の子たちが、たむろっている。皆、結構ヒマなんだな。

ふと見ると、圭一が女の子たちに向けて手を振っていた。

「おい、圭一、何やってんだよ。」

「何って、ファンは大切にしないとな。」

「ファン〜!?」

「そうだよ。あの子たちはオレを見に来てるんだぜ。」

「そうなのかぁ・・・。」

まあ、確かに圭一が笑顔で女の子たちに手を振ると彼女たちは、きゃあきゃあと騒ぎ始める。

ふーん。ファンねえ・・・。

「ほらっ 健二も手ぐらい振ってやれよ。」

「何で、オレが。」

「いいからっ ほれっ。」

いきなり、圭一は僕と肩を組んで、手をブンブン振った。

僕も仕方なしに、ひきつった笑顔で彼女たちの方を見た。途端に騒ぎ声が大きくなる。

「なっ・・・何だあ・・・。」

「おい、健二、オレのファンを取るんじゃねえぞ。」

「何だよ、それ。」

「ったく、皆、お前なんかのどこがいいんだろうな。」

「な、なにぃ。」

「お前・・・ほんっとに鈍感だな。」

「どういうことだよ。」

「あの子たちの大部分は、お前のファンだ。」

「オレの・・・ファン?」

「そうだよ。」

「何言ってんだよ、お前今、自分のファンだって言ったじゃないか。それに圭一はいつもラブレターとか、貰ってんじゃん。

オレはそんなの貰ったことないぜ。あの子たちはお前のファンだよ。」

僕がそう言うと、圭一は、ハーとため息をつき、やってられないというポーズをとった。

「何だよ、そのポーズは。」

「このまんまの意味だ。」

「?」

「あのなあ、お前には京子ちゃんという彼女が一年のころからいたろ。」

「あ、ああ。」

「誰が、彼女いる奴にラブレターを出すんだよ。」

「あ、そっか。」

「お前は、気付いてなかったかもしれねえがな、オレは、お前を好きな女の子から何人も相談を受けたんだ。」

何人もというところに、力を込めて圭一は言った。

「そ、そうか、悪い・・・。」

「そのたんびに、オレが、いろいろと説得して、諦めさせてきたんだぞ。」

「そうか・・・。」

知らなかった。そんなこと。僕は、もうすでに、何人もの女の子たちをふっていたんだ。

それにしても、皆、本当に僕のどこがいいんだろ。

「なあ・・健二・・・。」

「え・・・。」

「お前、本当にわからなかったのか。」

「ああ、全然。」

「だってよ、去年のバレンタインの時は?貰わなかったのか。」

「えっ うーんと、貰った・・・な。」

「どんくらい、貰った?」

「う〜ん・・・七十個・・くらいかな。」

「・・・そんなに、貰ったのか・・・。」

「・・・まあ・・な。」

「・・・それ、どうした。」

「一応、持って帰ったけど・・・。」

「・・・京子ちゃんと美沙ちゃんは、何だって・・・。」

「・・・美沙は・・・普通だったよ、京子は・・・くれなかった。」

「・・・オレは、一三個貰った・・・。」

「・・そうか・・・。」

「チョコ持って帰った時、美沙ちゃん怒ってたんじゃないのか・・・。」

「そうだな、今考えると、そうかも・・。」

「オレの一つは、京子ちゃんからだったんだよ。そうか、健二にあげるチョコだったんだ・・・。」

「え・・京子から貰ったのか・・・。」

「だいたいなあ、京子ちゃんいるのに、何で七十個も貰うんだよ。」

「え・・だって、皆、義理だから気にするなって・・・。」

「お前なあ・・義理で七十個も、くれるはずねーだろ。」

「そ・・そうだな・・・。」

「はー 鈍感野郎め・・・。」

何も言い返せない。僕は、もしかして知らないうちに、美沙や京子を傷つけていたのではないだろうか。

「ま、もう過ぎたことだしな。気にすんなよ。」

「あ、ああ。」

「そろそろ、本気でいくぜっ。」

「お、おうっ。」

圭一からのパスを僕は、おもいきりシュートした。

「ナイシューッ。」

「もっかい、いくぞっ。」

「おう、こいっ。」

サッカーのセンスは、はっきり言って圭一の方がある。

でも、シュート力は僕の方が上なので、シュートは、だいたい僕が蹴っていた。

「おつかれさん、またな。」

「ああ、明日な。」

大会前なので、バイトはもう辞めてしまった。コンディションを整えないとな。

僕が校門の所に差し掛かると、女の子たちが僕を待っていた。

「あ、あの、藤井さんっ。」

「えっ。」

「こ・・これ、受け取って下さいっ。」

見ると、タオルとかのようだ。

「何で、オレに?」

「え・・・そ、その。」

「ごめん、こういうのはちょっと・・・。」

僕がそう言うと、女の子は涙を浮かべて、走って行ってしまった。こういうことって断るのも心が痛むよな・・・。

「おーおー 色男さん、もてるねぇ。」

「圭一・・・からかうなよ。」

気がつくと、圭一が僕の後ろでニタニタしていた。

「なあ、もうバイトは辞めたんだろ?」

「ああ、そうだけど。」

「んじゃさ、久しぶりにゲーセン行かねーか。」

「そうだな、行くかっ。」

「そうこなくちゃな。」

僕と圭一はゲーセンに入り、それぞれ好きなゲームをやっていた。

「おっ 新作が入ったな。健二、これやんねえか?」

「いや、オレは、いつものがいい。」

「まったく、お前、それ下手なんだから、いい加減、諦めれば。」

「うるせえな、好きなんだよ。」

僕が一心にゲームをやっていると、ふいに後ろから肩を叩かれた。

「・・・藤井さん・・・。」

「あ?」

振り向くと、新条が立っていた。

「し、新条。」

「こんな所で遊んでいて、いいと思ってんスか。」

「何だよ、先公みたいなこと言うな。」

「藤井は・・・藤井のことは、どうなってんだ。」

「あ・・美沙のことは・・別に・・・。」

「別にじゃねえっ 兄貴として義務を果たせっ。」

「うるせえな、新条っ お前にはカンケーねえだろ。」

僕は、つい怒鳴ってしまった。皆の視線が僕に集まる。

「健二?どうした・・・。」

圭一が、ひょっこり顔を覗かせた。

「あ、圭一、オレ先帰るわ。」

「え、ああ・・・。」

僕は新条の首根っこを掴んでゲーセンの外に連れ出した。

「あ、あにすんだよっ。」

「お前、いちいちうるせえよ。」

「だって、藤井が、かわいそうじゃねえかっオレは、オレには何もできねえけど・・・あんたなら・・・。」

新条は、きっとまだ美沙のことが好きなんだろう。多分、圭一も。皆を諦めさせたのは僕だ。ハッキリ言わないとな。

「安心しろ。美沙は、幸せにするから。」

「え・・・。」

「オレに、任せとけ、わかったな。」

「あ・・ああ・・・。」

僕はそう言うと、ポッケトに手を突っ込んで歩き出した。

京子を幸せにできない分、美沙を幸せにしないと、僕は皆に申し訳がたたない。

これは、僕の男としての義務だ。これだけは、成し遂げてやる。

家に帰ると、また久しぶりに親父の靴があった。一ヶ月ぶりか・・・。僕は居間に入った。

「あ、おかえり、健二。」

「おかえりなさい、健二くん。」

「・・・帰ったか・・健二・・・。」

「ああ・・親父もな。」

僕はイスに、どかっと腰掛けた。

「お腹すいたでしょ。すぐ、ご飯にするわ。」

「あたしも手伝う。」

母さんと、美沙が席を立つ。テーブルには僕と親父の二人だけになった。

この先、またいつ親父に会えるかわからない。僕は親父にだけは自分の気持ちを話すことにした。

「・・・親父・・・。」

「・・・何だ・・・。」

「話があるんだ・・・。」

「・・金ならやらんぞ・・・。」

ガクッ、人がシリアスにきめてる時にぃー。

「親父っ オレはマジなんだっ。」

「私とて、本当だ・・・。」

なんだかなー。この野郎。

「・・・ちゃんと聞いてくれよ。オレ・・・オレさ・・・美沙が・・好きなんだ。」

「・・・そうか・・・。」

「うん・・・。」

親父は黙ったまま、ただじっと僕の顔を見つめた。

僕は親父の圧倒的な眼光に目を反らしそうになるのをガマンして、親父の目を見た。

「・・・本気なんだな。」

「ああ・・・。」

「わかった、私は何も言わん。」

「親父・・・。」

「母さんには自分で、話せよ、私は何もしないからな。」

「ああ、わかったよ。」

僕はホッとして、料理が運ばれてくるのを待った。親父なら、認めてくれると思っていた。

ほとんど顔を合わせないのに、やっぱり信頼してるんだろうな。

「おまたせ、さあ、召し上がれ。」

「いっただきまーす。」

夕食を食べ終わると、僕は部屋に戻った。ふいに京子の顔が頭に浮かぶ。

やめやめ、大会が終わるまでは、考えないって決めたんだ。僕はベッドに横になった。

 

第9話へ続く

 

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