第11話

 

アレフはフィリシアに連れられて宿屋に戻ってきていた。

「こ、この部屋に君のお父さんが?」

「そうですわ。さ、参りましょう」

「ちょ、ちょっと待って」

アレフはドアのノブを握ろうとしたフィリシアの手首を掴んだ。

「まあ、アレフレッド様、いけませんわ」

「ち、違う!!どーして君はそういう誤解をするかなあ」

アレフは手を離してドアに手をついた。

「どうしたんですの?」

「君、なにを考えてる・・・」

「どういうことですか」

「だから、金を肩代わりしたり、俺を父親に会わせようとしたり」

「ですから、それはアレフレッド様のことを思って」

アレフはフィリシアの方を向いた。

「それにその格好だよ、まるで冒険者じゃないか」

「アレフレッド様」

「な、なにさ」

「私の言ったことを聞いていなかったのですか」

「え・・・」

「私、アレフレッド様をお慕いしています。あなたと一緒にいたいと思っております」

「フィリシア・・・」

「私の気持ちをお父様に伝えたいのです。それはいけない事なのですか」

「で、でも金のことは」

「あのままお金を払えなければアレフレッド様達はあの酒屋でしばらく働かなければなりませんでした。

旅をしているのにそのような時間がおありなのですか」

「う・・・」

フィリシアはアレフの手をとった。

「私、アレフレッド様のお役にたちたかったのです」

「ふぃ、フィリシア・・・お、俺は・・・」

「どなたかお好きな人がいらっしゃるのですか?」

「そ、そんな人はいないけど・・・」

「でしたら、宜しいじゃありませんか」

「でも・・・」

その時、ふいに部屋のドアが開いた。

 

「何を騒いでいる」

「あ、お父様」

「えっ」

アレフは慌ててフィリシアから手を振り払った。

「フィリシアではないか。何をしているのだ」

「お父様、私、お父様にお話したいことがあるのです」

「私に話だと・・・おや、その少年は」

「あ、こちらはアレフレッド様です」

「あ、アレフレッド・サンダロスと言います」

アレフはペコッと頭を下げた。

「まあ良い、中に入りなさい」

「はい。さ、アレフレッド様」

「え、俺・・・いや、僕もですか?」

「当然ですわ」

アレフは中に入るとその部屋の大きさに驚いた。

昨日、セナと泊まった部屋の軽く5倍はある。

「アレフレッド君、だったかね」

「は、はい」

「まあ、腰掛けたまえ」

「は、はい。失礼します」

アレフは緊張しながら今まで座ったこともない大きなクッションみたいに柔らかい椅子に座った。

隣にフィリシアも座っている。

「さて、フィリシア。私に話というのは何なのだね」

「はい、私、旅に出たいのです」

「旅?・・・」

「はい、アレフレッド様に付いて行きたいのです」

「アレフレッド君は旅をしているのかね」

「は、はい」

「なにを目的としてかい」

「僕は強くなりたいんです。自分がどれだけ出来るのか、見極めたいと思っています」

「ふむ・・・」

「自分の街を出たばかりの頃は1人でした。でも、今は仲間がいます。信じられる仲間が。

ですから僕は負けられません。みんなで助け合っていけるように僕は強くなりたい」

「なるほど、素敵な仲間達だね」

「は、はいっ」

フィリシアの父親はフィリシアの方を見た。

「フォリシア、お前はアレフレッド君を好いているのか」

「はい、お父様」

「それが見合いを断った理由なのだな」

「はい」

「・・・・・・」

「お前ももう16だ。1人立ちしても良い頃だと私は思っている」

「では・・・」

「だが、母さんになんと言えば良い」

「お母様・・・」

「母さんはまだまだお前を子供だと思っている。まあ、母親というものにとって子供はいつまで経っても子供なのだがな」

「きっと、分かってくれると思いますわ」

「・・・・・・そうだな」

この会話を聞いたアレフは父親の事を思い出した。

(父さん・・・)

アレフは街を出て来る時、父に酷い言葉を浴びせてしまった。

あの時、自分はなんて子供だったのだろう。

出来ることなら、今すぐにでも謝りたい。

「アレフレッド君」

不意に声を掛けられ、アレフはハッと我に返った。

「は、はい。なんですか」

「フィリシアを宜しく頼みます。君なら娘を任せられる」

「そ、そんな僕なんて」

「いや、君は立派な男だ。これからも自分の意思で行動するんだぞ」

「はい・・・」

「アレフレッド様」

目をキラキラ輝かせて自分を見ているフィリシアを見て、アレフは胸に不安を感じた。

(これから上手くやっていけるのかな・・・)

未来は誰にも分からない。

分からないからおもしろいのだ。

きっとこれからの旅はますますおもしろく、楽しくなることだろう。

セナ、アレフ、クロッサルにタータビネーニョとフィリシアを加え、5人になった一行は一路、ブロボンの街へと向かった。

 

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