第1話

 

「ハァッハァッハァッ」

男は錆付いた剣を高く持ち上げると正面に構えた。

男の周りには黒い獣が5匹。

日はもう暮れて真っ暗だ。

獣の一匹の目が光ったかと思うと男に飛び掛った。

「くっ」

男は剣の柄を強く握ると獣目掛けて振り下ろした。

辺りが暗いので男は音と気配を頼りに戦わなければならない。

男の剣が宙を舞った。

「ガアオオオッ」

獣の牙が男の左肩をかすめた。

「つうっ」

男はバランスを崩しそうになったが足を踏ん張った。

二匹目が男の目の前に現れた。

「うわあっ」

間一髪それは避けられたが、男の目にはもう恐怖の色が浮かんでいた。

男はこれでも自分の街では街一番の剣の使い手とうたえられていたものだった。

だが、ここではそんな肩書きは通用しない。

「うわあっよるなっ来るなっ」

獣がジリジリと間を狭めると男は反乱狂になって剣をめちゃくちゃに振りまわした。

残りの獣が男に今飛び掛らんとしたその時、そいつは現れた。

そいつは男の前に風のようにふわっと舞い降りたかと思うと踊るように剣を奮い、獣を次々と倒していった。

「キャウンッキャウッキャウッ」

獣達は悲鳴を上げて逃げていった。

「おい、もう行っちまったぜ」

「うわあああああっ、助けてくれっ」

「だから、もういねえって」

「ああああっ」

「どやかましいっ、黙れっ」

「!!」

そいつは額に赤いバンダナをして白いマントを付けていた。

「あ、あんたは・・・・」

「金」

「へ?」

「だから金だよ。助けてやったろ」

顔はよく見えないが声がどうも高い。

「あ、あんた女か?」

「んなことはどーだっていいんだよ。金払うのか払わねえのか」

「い、幾らだ・・・」

「そうそう素直でいいぜ。そうだなぁ・・・ダークウルフが五匹だったよな。一匹五百として二千五百Gでいいぜ」

「にっ、二千五百Gぉ!?」

「命が助かったんだからそんぐれえ安いもんだろ。それともお前の命は二千五百Gよりも安いってのか?」

「い、いや・・・でも・・・」

「なんだよ、金持ってねえなんていわねえよな」

「・・・・・・・」

「・・・かー、しょうがねえなあ。随分立派な防具つけてっから金持ちだと思ったんだがなぁ」

「・・・・・す、すまん」

「謝ってなんかほしくねえよ。そのかわりその荷物置いてけ」

「ええっ、そ、それは・・・」

「金がねえんだろ。まさかただで助けてもらったなんて思ってねえだろうな」

「で、でもこれを取られたら俺は生きていけないよ」

「うるせえなっ、そんなのあたしの知ったこっちゃないよ。ほら、さっさと置いていきな」

男はそこに立ち尽くした。

「・・・・・わ、分かった。ただで助けて貰う訳にはいかないな」

「うんうん、そうそう」

男は防具を取ると左肩から血が流れ出ていた。

「・・・おい、さっきのでやられたのか、それ」

「え?ああ、うん」

「・・・・・ちっ、いらねえよ」

「えっ、どうしてだ」

そいつは横目で男を見ながら言った。

「助けてやるって言ってもそいつが怪我してたら金は貰えねえ」

「あ、でもこれは君が助けてくれる前にやられたんだ」

「どっちにしろ、お前は怪我をした。それは紛れもない事実だ。金は貰えん」

そいつはきびすを返すと歩き出した。

「ま、待ってくれ」

「なんだよ」

「君の名前は?」

「なんでそんなことお前に教えなきゃならねえんだ」

「例え君が金を貰わないと言っても助けてもらったことも事実だ。俺は君に礼をしなければならない」

「・・・・・・」

「だから、君の名前は?」

「名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀ってもんだぜ」

「あ、俺はアルフレッド。アルフレッド・サンダロス」

「アルフレッド・・・・。あたしは、セナ」

「セナ・・・・・。鋼鉄のセナか」

「そんな名前は知らねえな。とにかく名乗ったぜ。じゃあな」

「ちょっ、待ってくれ、セナさんっ」

「何だよ、まだなんかあるのか?」

「だ、だから、礼は・・・」

「お前、金持ってねえんだろ。どうするつもりなんだよ」

「セナさん。旅をしてるんだろ。だったら俺も付いていく」

「は、はぁ?」

「いつか借りを返す」

「じょーだんじゃない。お前みたいな弱っちいのなんかと一緒に旅なんかできっかよ」

「う・・・・」

「わりぃことはいわねえ。今日のことは忘れてやる。ありがたく思いな」

セナはそう言うと歩き出した。

アレフは何も言えずただそこに立っているだけだった。

セナは馬をつないであるところまで来ると飛び乗った。

「はあっ!!」

「ひひひぃ〜んっ」

馬を走らせる。

次の街へ行くために。

セナはなぜ戦っているのだろう。

その答えはセナにしかわからない。

いくどもの戦いをくぐり抜けてきたんだろう。

セナの付けている防具にはいくつもの傷が残っている。

しかし、その顔は気品に溢れていた。

セナは一体どこから来たんだろう。

何のために旅をしているのだろう。

セナはまっすぐに前を向いてただ、草原を走り抜けていった。

 

アレフは川まで歩いてきた。

傷を水で洗う。

「いっ・・・しみる・・・」

傷を縛り、川岸に腰掛けた。

「ふぅ・・・セナ、か・・・」

アレフはセナのことを考えていた。

セナは強かった。

それにその戦いぶりはなんていうかとても美しかった。

街で一番の剣使いだった自分がまさか女に助けられるなんて考えもしなかった。

『お前みたいな弱っちいのなんかと』

セナの言葉が心に刺さった。

そう、自分は弱かった。

街ではみんなに尊敬されていたから、腕試しなんて考えてしまって。

でも、外の敵はとても強い。

とてもかなう相手ではなかった。

「もう、帰ろうかな・・・」

今までの旅ですっかり自信をなくしてしまったアレフはふぅっとため息をついた。

その時、川に移った自分の顔を見たアレフは子供のころの事を思い出した。

そうだ、自分は弱虫だった。

街のみんなに馬鹿にされていつも泣かされていた。

その頃に父に言われた言葉がある。

『強くなれ、アレフ。未来への道なんてものはどこにもないんだ』

『歩いた後が道になる。お前は自分の道を見つけられるはずだ』

アレフはその時から強くなった。

挫けそうになった時はいつも父の言葉を思い出して頑張った。

「そうだ、俺は自分の道を作ってやるんだ。こんなところで負けてたまるか」

アレフは立ちあがった。

まず手始めにさっきの借りを返さなければいけない。

セナを追おう!

そしてアレフはセナが乗っていった馬の蹄の跡を歩いていった。

 

 

セナは次の街、カートラの街に来ていた。

確かこの街では今日、武闘会が開かれるはずだった。

「武闘会の会場はどこだ?」

セナは屋台の親父に声をかけた。

「ああ?お嬢ちゃん、武闘会にでるつもりなのかい?無駄無駄、どうせ優勝はケートンに決まってるよ」

「ケートン?強いのか、そいつは」

「ああ、お姉ちゃん旅の者かい。ケートンっていうのは3年連続の優勝者だよ。敵うわけないって」

「そうか。で、会場はどこなんだ?」

「だから・・・ひっ」

セナは剣の先を親父の首筋に着き付けた。

「どこだと聞いてる」

「あ・・・あそこの屋敷だよ。貴族の道楽でやってんだ」

「そうか、感謝する」

セナは剣をしまうと馬に飛び乗った。

「お、お姉ちゃん、ただもんじゃないだろ。な、名前はなんてんだ・・・」

「名前か・・・。あたしはセナだ。はっ」

セナが馬を走らせて見えなくなると親父はへたへたと座り込んだ。

「あれが鋼鉄のセナ・・・。は、はじめて見た」

屋敷の前には大勢の人が集まっていた。

大半が男である。

まれに女らしきものも混ざっていたが、本物と思える人はいなかった。

そこへ馬に乗って美少女がやってきたのだ。

男どもがセナを見てはやし立てた。

「ひゅー、姉ちゃん、まさか出場する気じゃねえだろうな」

「いやいや、この姉ちゃんは色気で相手を悩殺すんだぜ」

「がはははっ、そりゃまいった」

「どーだ、姉ちゃん。今晩つきあわねえか」

口々にいろいろなことを言っていたがセナは相手にせず受付に歩いていった。

「・・・・・・出場希望ですか?」

受付の貧弱そうな男がセナを見て怪訝そうに尋ねた。

「出るから来たんだろ」

「そ、そうですね。お名前は?」

「・・・・・・セナ」

その瞬間、あたりは水をうったように静まりかえった。

「あれが鋼鉄のセナか」

「大男を一撃で倒したとかいう・・・」

「いや、20人相手に軽く捻りつぶしたそうだぞ」

一瞬でセナを見る目が変わった。

その雰囲気をさっしたのか受付の男は少し怯えがちに言った。

「1時間後に大戦表を発表します。試合開始の合図が聞こえたら闘技場に来てください」

「わかった・・・」

セナはあくまで表情を変えず、来たときと同じように馬に飛び乗って走っていった。

 

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