『LIKEがLOVEに変わるとき』

 

第4話

午後8時、僕は部屋の中にいた。

僕の前には美沙がいる。目にいっぱい涙をためて僕を見ている。

僕は・・・。ボーゼンと立ちすくむことしかできなかった。言葉が出ない。

美沙の目を・・見返すことさえできなかった。

美沙は、ためにためていた涙が溢れ出すと同時に僕の部屋を飛び出した。

「み・・・。」

追いかけることができなかった。僕はそのまま、へたりこんだ。

圭一と別れてから僕は六時ごろ家に着いた。

夕飯を食べて部屋でマンガなんか、読んでると美沙が僕の部屋のドアをノックしてきたんだ。

「へーい、入ってまーす。」

「ばか・・・入るわよ健二。」

「おう、何かよーか。」

「ん・・・ちょっと相談があるの。」

相談・・・あの男のことかな、まさか圭一の奴、あのまま告白しに行ったんじゃないよな。

「ああ、何だよ。」

「あのね・・・返事を・・せまられてて。」

「返事?」

「うん・・・告白の・・・。」

「ああ・・・。」

やっぱりな・・・。美沙には、好きな奴がいるんだよな。前にも言ってたし、でも何でムリなんだろ。

「・・・・・」

「美沙・・美沙にはさあ、好きな奴いるんだろ。」

「うん・・・。」

「何でムリなんだよ。」

「だって・・・。」

「・・・・・」

「・・・・・」

気まずいなあ。こういう時、何て言えばいいんだろ。

だいたい、普通、友達にするもんだろ、兄貴にするかあ。

女の気持ちを男の僕が分かってあげられるはずがない・・・。

「あのさあ・・・圭一のこと・・どう思う?」

「新井さん?いい人だと思うけど、なんで?」

「あいつよ、お前のこと好きなんだってさ。」

「!!・・・」

「美沙の相手はムリなんだろ。オレもさ、圭一だったら安心だし・・よかったら・・。」

「・・・何で。」

「えっ。」

「何で健二がそんなこと言うのよ。」

「何でって・・・あいつは、親友だし、オレも応援して・・・。」

「健二は私の気持ちなんて、全然考えないんだ・・・。」

「そんなことねーよ、だけど、誰が好きなんかわかんねーからさ・・・。」

まずった・・・。機会がだめだったな。でも何で怒るんだ?僕・・何か悪いこと言ったかな。

「・・・本当に・・分からなかった?」

「は?」

「私は・・・。」

「・・・・・」

「健二のことが好きなのっ。」

「!!・・・」

な・・・。何っ・・・、そ、そんな、そんなこと考えもしなかった。

美沙が見ていたのは僕だったなんて、だ、だけど僕は・・・その気持ちに答えることはできない。

例え、血はつながってないとはいえ、僕たちは兄妹なんだ。それに・・僕には好きな人がいる。

京子だ。・・・ごめん、美沙・・それはムリなんだ。

美沙の目に、どんどん涙がたまってくる。

僕は・・・目を反らした。

その時、時計の針が八時を指した。

ボーンボーンボーンボーンボーンボー・・・

静かな部屋の中時計の音だけが響く。

僕は座り込んで、さっき起こったことを思い返していた。

美沙が好きな奴は僕・・・。気がつかなかった。

これまで気づかず、過ぎてしまった時間に僕は軽いショックをくらった。

まいった・・・、これからどんな顔して美沙に会えばいいんだ。

最も美沙は僕の顔なんか見たくないよな。

ははは・・・笑い事じゃないぞ健二、あーもう、どうしたらいいんだ。

僕はこの日、一睡もできなかった。羊も、四万八千五百九十三まで数えてしまった。

 

今日は京子が東京へ、行く日だ。僕は見送りに行った。

朝、顔を見たらひどすぎる顔になっていたので、グラサンをかけている。

見送りに来たのは京子の友達四、五人と僕、それに・・・美沙だ。

僕が出かけようとすると後ろから美沙が声をかけてきた。

「京子さんの見送り、私も行っていい?」

「あ、ああ。」

僕は、あれから美沙の顔を見てない。言葉もたどたどしい。

普通に普通にと思えば思うほど、ぎくしゃくしてしまうんだ。

「なあに、健二くん、そのサングラス。」

京子だ。何だか、明るいな、まあ泣かれるよりいいけど。

「ははは、結構似合うだろ。」

「うん、似合うけど、はずした方がいいな。」

「ま、まあいいじゃん、たまには。」

「だって、これから顔、見られなくなっちゃうもん。」

うっ・・・でも、はずしたら目の下に、ものすごいクマが・・・。しかし、京子の頼みとあらば、ああ、どうしよう。

「健二くん?」

「う・・・うん、わかった。」

「!! ど、どうしたの、そのすごいクマ・・・。」

「昨日、寝られなかったんだ。」

「どうして・・・。」

どうしてって、そんなの言えるわけないじゃないか。美沙に告白されて、そのショックでなんてさあ。

「きっと、お兄ちゃん、京子さんに会えなくなるからって、寝るのがやだったんだ。」

美沙?お兄ちゃんって・・言ったか?今・・え・・。何で急に・・・。

「え・・・ホントに?健二くん・・・。」

「あ・・ああ、まあな、ハハハハハ。」

何なんだ。美沙の奴。どうしたっていうんだよ。

「健二くん?どうしたの。」

「えっ いや別に・・・。」

僕のバカヤロー、京子が東京へ行っちゃうんだぞ。そんな、態度でいいと思ってんのか。

でも、こんな気持ちのまま、別れなきゃいけないなんて・・・。京子・・僕は・・。

ピーッ。発車の合図の笛の音がした。

「京子ーっ 手紙書くからー。」

「京子ー たまには、遊びに来てよー。」

京子の友達が最後の挨拶をする。

「みんなも、元気で・・・。」

京子は笑顔で友達に挨拶をすると僕の方を見た。

「元気でね、健二くん・・・かぜ・・ひかないように。」

「あ・・ああ。」

「大丈夫よ、京子さん、○○は、かぜひかないっていうから、ねーお兄ちゃん。」

「うふふ、美沙ちゃんたら・・・。それじゃあ・・さよなら、健二くん・・・。」

・・・行ってしまう。京子が。いいのか、健二、このまま何も言わないで行かせてしまって。

いいわけない、いいわけないだろ。僕は京子の腕をつかむと、ぐいっとひっぱった。

「キャッ。」

京子が僕の胸に倒れ込んだ。僕は京子の背中に手を回し、きつく抱きしめた。

「・・・向こうへ行っても頑張れ。」

そう言うと京子は小さな声で「うん。」と言った。

そして僕の頬にさっとキスをして「浮気しちゃ、ダメよ。」とささやいた。

僕が唖然とするのを後目に、腕をするりとぬけて、電車に乗り込んだ。

京子が乗ると同時にドアが閉まり、電車が動き出した。京子はずっと手を振っていた。

京子の友達は「京子ー。」と叫びながら、電車を追って走り出した。

僕は動かなかった。京子の、あの一言が頭にずっと残っていた。

“浮気しちゃダメよ”京子はたぶん、気づいていたんだろう。僕の様子が変だったことに。

でも、何も言わなかった。それが、ひどく心に、つきささった。

美沙は僕の横で電車が消えていった方向を見つめていた。

そして、急に僕にこう言った。

「じゃあ、私、先に帰るね。」

「え、お、おい。」

僕が返事を言う前に美沙は、走っていってしまった。

「・・・どうしろってんだよ。」

僕は呟くと、トボトボと歩き出した。

 

夏休みが始まったが、今年は楽しいものには、ならなそうだな・・・。

僕はずっと部活で、その合間にバイトを入れることにした。

バイトというのは、交通整理のやつで、あの道路に立ってピッピッと笛を吹きながら車を通す仕事だ。

部活は毎日あるが、十時から五時までなので、僕は夜にすることにした。

八時から明け方までなので結構ハードだ。

まあ、特に用事もないし、デートする相手もいないしいいんだ。別に。

圭一の奴は必死に美沙にモーションをかけているようだが、僕は応援することはできない。

圭一が僕に聞く。

「美沙ちゃんて、好きな奴いるのかな。」

答えることができない。

だって、圭一は僕らが本当の兄妹じゃないってこと知ってるんだぜ。

僕と圭一が初めて会ったのは中学の入学式、親父は仕事でこれなかったし、僕は一人で中学校に行ったんだ。

でも、遅刻しそうになって慌てて走っていたら、後ろから僕と同じように走ってくる奴がいたんだ。

それが圭一。

圭一の両親は自営業で、その日どうしてもぬけられなくて、

しょうがないから一人で来たら、やっぱり遅刻しそうになって走ってきたんだと。

僕らは我先にと走って、絶対こいつには負けないって思ってたけど、結局は二人とも遅刻して先生に怒られたっけなあ。

まあ、それがきっかけになって僕らは仲良くなったんだけどね。

だから、親が再婚するってこともすぐ圭一に話したし、妹ができるらしいってことも言った。

圭一は、「お前だったら、きっとうまくいくさ。」って励ましてくれた。

だから、僕は圭一に好きな奴ができたら応援してやろうって思ってたし、協力もしたいと思ってたよ。

でも・・・何で美沙なんだ。

そりゃあ、始めは、圭一と美沙だったらいいカップルになれると思ったし、僕もそのつもりで美沙にそのことを言った。

でも、美沙が好きな奴は僕だったんだ。それを知ってしまってから、圭一に協力するということは美沙を傷つけることになる。

いや、もう十分傷つけてしまったけど。

結局、僕は圭一も美沙も大事で二人とも裏切りたくないし、傷つけたくない。

そんなに、うまくいくはずがないってわかってるけど、しょうがないんだ。

 

第5話へ続く

 

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