『LIKEがLOVEに変わるとき』

 

第7話

「弥生さんか・・・。」

僕はしばらく、その方向を見つめていたが

やがて、意を結して家路へ歩き出した。僕の予想通り、圭一が家の前で僕のことを待ちかまえていた。

「待ってたぜ、健二。」

「ああ・・・。」

「お前どうしたんだよ、休むなら連絡くらいよこせよな。」

「わるい・・・。」

「どうした?何かあったのか。」

「圭一・・・話があるんだ。入らないか。」

「あ、ああ。」

僕は圭一を家の中に入れた。

「健二、何処行ってたのっ 新井さんから何度も電話が・・・、あ、新井さん。」

「どうも、こんちは、美沙ちゃん。」

「じゃ、入れよ、圭一。」

「あ、おう。」

僕は美沙の顔を見なかった。いや、圭一がいたから見られなかったのだ。

今の僕ならあいつの顔を見たら言ってしまいそうだったから。

僕は圭一をベッドに座らせ、自分はイスに腰掛けた。

「で、話ってなんだよ。」

「あ、ああ。」

「・・・今日、部活に来なかったのと関係あんのか。」

「・・・まあな。」

何から話せばいいんだろう。話したら圭一はきっと僕を怒るだろう。恨むかもしれない。

でも僕は、言わなくてはならない。

「圭一・・・オレは・・・。」

「あ?」

「オレは・・・美沙が好きだ。」

「!!」

「・・・・・」

「お、お前、何言って、京子ちゃんは。」

「京子は・・・もう、LOVEじゃないんだ・・・。」

「・・・・・」

「・・・圭一に、美沙を好きだって言われてオレ・・美沙に言ったんだ。」

「・・・ああ・・。」

「そしたら・・・美沙に・・・オレのことが好きだって言われて・・・。」

「・・・そう・・か。」

「・・・それまで、オレ、そんなこと考えたこともなかったし・・どうすればいいか、わからなかった・・・。」

「そう・・・だろうな・・・。」

「でもな・・・オレは心の奥底で美沙のことを・・・一人の女性として扱っていたんだ・・・。」

「・・・・・」

「・・オレ・・そう考えたら・・・自分の気持ち・・・気付いてしまった。」

「・・・健二・・。」

「え・・・。」

「京子ちゃんは、どうするつもりだ。」

「・・・それは・・・。」

「京子ちゃんは今、一人で東京にいるんだぞそんな京子ちゃんに言うつもりなのか。」

「・・・ああ。」

バキィィ。

突然、圭一が僕のことを殴りつけてきた。僕はイスごと床に倒れ込んだ。

「お前はっ 京子ちゃんに、ひどいと思わねえのかっ。」

「・・・思ってるよ。」

口が切れて、血が流れてきた。本当に、おもいっきり殴りやがって。

「・・・だったらっ。」

「気持ちを偽って、付き合う方が、もっとひどいんだ・・・。」

「・・・てめえっ。」

圭一は僕の胸ぐらをつかんできた。

「京子には・・悪いと思ってる。ひどいのはオレだ。でも・・・これだけは。」

「くっ・・・。」

「圭一・・・悪い・・・。」

圭一は手を放し、床に座り込んだ。

「・・・ったく。お前がもっとひどい奴だったら、もっと殴ってやったのによ。」

「圭一・・・。」

「よく考えた末の結果なんだろ。」

「ああ・・・。」

僕も床に座った。

「ま、オレもさ、わかってたよ。」

「え、何を。」

「美沙ちゃんが、健二のことを好きなのがさ。」

「えっ。」

「なんとなくだけどな。」

「そうか・・・。」

「はー お前も辛いよな。」

「オレなんかより、・・あいつが・・・。」

「そうだな・・・。」

圭一は、よっこいしょと立ち上がると、僕にも立てと合図をした。

「いつ、京子ちゃんに、言うつもりなんだ。」

「うん・・・なるべく早くがいいと思って

それに電話じゃなんだから、ちゃんと会いに行こうと思うんだ。」

「そっか・・・。」

と、圭一は呟いて、僕の部屋を見回した。

「圭一?」

「まったく、お前は罪な男だぜっ。」

ドスッ

「うっ。」

圭一は、僕の腹にも一発くらわせた。

「じゃあな、色男さんよ。美沙ちゃん、泣かすなよ。」

「ゴホッゴホッ、ま、待て。」

圭一は、ニヤリと笑って僕の部屋を出ていった。

僕が圭一を追いかけて、玄関まで来ると圭一と美沙が、何か話していた。

「・・・だったんだ。」

「え・・あ、新井さん、私・・・。」

「いいんだ、言いたかっただけなんだから。」

「・・・ごめんなさい。」

「お、おい圭一、この野郎。」

「おっ 健二くん、大丈夫かね。」

「何が大丈夫だ、てめえ。」

「いいんだよ、そのくらい当然だ。女の敵め。」

「う・・・。」

「んじゃあな、健二。明日は部活来いよ。」

「ああ、わかったよ。」

「それじゃ、バイバイ美沙ちゃん。」

「あ、さようなら。」

圭一が出ていくと、玄関には僕と美沙の二人きりになった。

圭一・・・お前、本当にいい奴だな。

ふいに美沙が、僕の顔を見た。

「あ、健二、口切れてるよ、どうしたの。」

「え、あ、ちょっとぶつけた。」

「何処でそんなとこ、ぶつけるのよ。ケンカしたの?」

「うんにゃ、一方的に殴られた。」

「え・・・だ、誰にっ。」

「やさしーい、ご友人様。」

「何言ってるのよ、消毒しなきゃ。」

「いいよ、こんなの。」

「ダメよ、さあ、こっちに来て。」

僕は無理矢理、美沙に居間に連れてこられた。

「ここに、座ってて。」

「はいはい。」

美沙は、救急箱を持ってくると、ガーゼに消毒液を付けて、ピンセットで僕の口元にもってきた。

「健二もケンカなんてするのね。」

「ケンカじゃねえよ、殴られただけだ。」

美沙は、クスッと笑うと、指で僕の傷口をはじいた。

「いでっ。」

「はい、おしまい。」

「何すんだよ、ったく。」

僕が、ぶつぶつ言いながら立ち上がろうとすると、美沙は顔を伏せてしまった。

「ん?どうした。」

「あ、あのね、さっき新井さんが・・・。」

ああ、そうか、圭一の奴、美沙に自分の気持ちを言ったんだな。

「好きだったって言われたの・・・。」

「そうか・・・。」

「そうかって・・何も言ってくれないの。」

「だったってことは、今は違うってことだろう。」

「そうだけど・・・。」

また、美沙の顔が暗くなる。こんな顔を見ると、言っちまいたくなるよな・・・。

でも今の僕に、その資格はない。

「・・・美沙さあ・・・。」

「え・・・。」

「・・・もう少し、待っててくれ・・・。」

「それって・・どういう・・・。」

「ま、気にするな。」

「気にするわよ。どういうこと?」

「さあな・・・。」

僕は、フッと微笑んだ。すると、美沙の顔がポッとほてった。

「えっ笑顔で、ごまかさないでよー。」

良かった。表情が元に戻ったな。

僕はそのまま、部屋に戻った。机に向かい、引き出しに入れてあった京子の写真を見る。

京子・・・。離れたって気持ちは変わらない、オレを信じろ、とか言ったくせに、僕は京子に一番辛いことを言わなくてはならない。

僕は、ひどい男だ。あんなに・・・あんなに好きだったのに、どうして気持ちは永遠じゃないんだろう。

 

一週間の日をおいて、僕は京子に電話をかけた。

「はい、桂木です。」

「あ、京子・・・オレ・・・。」

「健二くん?あら、どうしたの。」

「ああ・・・、ちょっとね。」

「?」

「あのさ・・京子、いつ・・ヒマになる?」

「え・・うん・・そうね、二五日以降だったら。」

「そうか・・・、じゃあ二六日、いいかな。」

「いいって?」

「・・・会いに行っていいかな。」

「え・・う、うん・・いいわよ・・・でも夏季大会は?」

「大会は二五日までだから・・・。」

「そう・・でも疲れてるんじゃ。」

「オレは平気だよ。それじゃ、いいんだね。」

「う、うん。」

僕は京子に、会う約束を半ば強引に取り付け電話を切った。

「ふー。」

何て言おう。いや、それよりも一九日から始まる大会のことを考えないとな。

去年は準決勝で負けたけど、今年は・・・。でも、こんな気持ちで集中できるかな・・・。頑張ろう。

 

第8話へ続く

 

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